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Q & A

教えて!
ソーシャルマーケティング!

Q

ソーシャルマーケティングは
いつ頃から使われているのですか?

A

ソーシャルマーケティングの歴史は60年ほどであり、スリランカにおける避妊薬の分布を調査するプログラムから始まりました。

1971年にコトラーとザルツマンにより「ソーシャルマーケティング」という言葉が使われ、1980年代にはWHOが「ソーシャルマーケティング」を使用しはじめ、禁煙、栄養摂取などの医療政策に組み込まれるようになりました。さらに、1990年代には米国、2000年代には英国で医療政策の要となりました。2010年代には、その概念と手法を普及させるために世界の各大陸で専門家集団が形成され、政策に活かされてきています。

遅れていたアジア・日本の拠点として、2021年4月、同志社大学にソーシャルマーケティング研究センターが設立され、日本におけるソーシャルマーケティングの普及の役割を担っています。

(詳しくは『行動科学でより良い社会をつくる』P.15-21)

Q

ソーシャルマーケティングについての決まった定義はありますか?

A

はい、あります。2013年に、国際・欧州・オセアニアソーシャルマーケティング協会によって統一の定義が提唱されました。さらに、2017年、北米・南米ソーシャルマーケティング協会も参画して、その定義が再確認され、世界的な合意にもとづく定義として以下の英文が示されました。( )内は、ソーシャルマーケティング研究センターが日本語訳したものです。ソーシャルマーケティングはダイナミックに進化する分野であり、今後、定期的に見直し、修正される予定です。

Social Marketing seeks to develop and integrate marketing concepts with other approaches to influence behaviour that benefit individuals and communities for the greater social good.

Social Marketing practice is guided by ethical principles. It seeks to integrate research, best practice, theory, audience and partnership insight, to inform the delivery of competition sensitive and segmented social change programmes that are effective, efficient, equitable and sustainable.

(ソーシャルマーケティングとは、マーケティングの概念と様々な手法を結びつけることにより、「ソーシャルグッド」の実現に向け、個人やコミュニティー全体としての行動の変容を促すことを目指すものです。

ソーシャルマーケティングの実践は、倫理要綱の遵守を基本とします。その上で、調査を実施し、最も適切な方法を選び、学説・理論に基づいて、対象者・協力者のインサイトを組み合わせることで、目指す行動と競合する行動を意識し、対象グループに合った、効果的、効率的、公平で持続可能な「より良い社会をつくるための取り組み」を提供することを目指しています。)

(詳しくは『行動科学でより良い社会をつくる』P.24-27)

Q

ソーシャルグッド(social good)とは
なんですか?

A

Good(よきこと)とは、時代、文化、おかれている環境、立場により変化するため、一つの定義を定めることはできません。その時代の中で、ひとり一人が自己の外と向き合い、問い続けることが大切です。

ソーシャルグッドをあえて一言でいうと、「他者へ思いやりをもって向き合うこと」です。他者とは、個人をとりまく家族やコミュニティ、人間との関係の社会、さらに、動物、環境や地球全体を包括します。

(詳しくはソーシャルマーケティング研究センターウェブサイト

Q

ソーシャルマーケティングによって、不適切な行動へと変容させられることはないのでしょうか?

A

ないと考えられます。その理由は次の3点です。

第一に、ソーシャルマーケティングでは、個人と社会にとって「ソーシャルグッド」な行動を対象とします。ソーシャルマーケティングに基づくプログラムにおいては、関わる人々が、「この行動は個人、他者の役にたつのか」と問い続け、考え、実践します。

第二に、世界的に合意された倫理要綱を遵守し、介入対象者の意思を尊重し、不利益にならないように注意を払って活動をしています。

第三に、介入施策を策定するプロセスで、行動変容の対象者の声をしっかりと聴き、また、施策を共創することで、対象者の思いを尊重し、対象者への不適切性もチェックしながら進めます。

※合意された倫理要綱とその日本語訳はソーシャルマーケティング研究センターウェブサイトに掲載。

Q

ソーシャルマーケティングは
理論ですか?

A

いいえ、ソーシャルマーケティング自体は理論ではありません。個人やコミュニティー全体としての行動の変容を促すプログラムを策定するための、学際的、体系的な枠組みです。一方で、行動を理解したり、行動変容を効果的に促すために、多様な分野の理論が活用されます。

(詳しくは『行動科学でより良い社会をつくる』P.24)

Q

コーズリレーテッドマーケティングと
同じですか?

A

いいえ。コーズリレーテッドマーケティングは、社会課題の解決に寄与するものの、同時に企業の売り上げ増加も目的としており、社会全体への恩恵が必ずしも第一の目的となっていないため、ソーシャルマーケティングとは区別されます。

コーズリレーテッドマーケティングとは、コーズ(社会的大義)を自社の製品・サービスのプロモーションに活用する取り組みで、ボルヴィックとユニセフが協働した「1ℓ for 10ℓ」キャンペーンが事例として挙げられます。

両者は、恩恵を受ける対象者、成果の視点で違いがあります。恩恵を受ける対象者について、ソーシャルマーケティングでは社会全体や課題を抱える個人であるのに対して、コーズリレーテッドマーケティングでは、社会的大義に関わる団体・個人と企業です。成果について、ソーシャルマーケティングではより良い社会につながる行動の増加であるのに対して、コーズリレーテッドマーケティングでは、購買行動・寄付行動の増加、ブランド・企業・製品のイメージに対する意識の向上、消費者のロイヤルティの向上、ブランドの切り替えなども含まれます。

(詳しくは『行動科学でより良い社会をつくる』P.40-41)

Q

ナッジとの違いはなんですか?

A

ナッジはソーシャルマーケティングで活用される手法の一つですが、ソーシャルマーケティング自体ではありません。ソーシャルマーケティングでは、対象者へのアプローチ方法を策定する前に、対象者の属性ごとの行動変容を阻害している要因や行動モチベーションを調べます。その結果、ナッジの様な外部的なアプローチが効果的であると予想される対象者であれば、ナッジに基づく施策が採用されます。ナッジ以外の応用行動分析学、社会心理学、健康行動科学、人間工学などに基づく理論やモデルが効果的な対象者であれば、それを用います。つまり、ソーシャルマーケティングにおける介入方法を考える際、様々な基盤が想定されますが、その一つにナッジがある、という関係です。ナッジは非常に有用ですが、対象者により考えや行動できない理由は多様であるため、それ以外の理論やモデルを使った介入も組み合わせることで、行動変容の実効性が高まります。

(詳しくは『行動科学でより良い社会をつくる』P.38, 99-102)

Q

どのような活動がソーシャル
マーケティングなのか、識別するには
どうすればいいですか?

A

トップページの三つの視点で考えることが大切です。

一点目は、「ソーシャルグッド」な行動への変容を主目的としているかどうかです。

二点目は、C-2で示された要素(ベンチマーククライテリア)を含む施策が立案されているかどうかです。行動変容を促したい対象者の考えや行動障壁について調査することなく立案される活動は、定義からソーシャルマーケティングとはいえません。

三点目は、C-1で示されたプロセスに則っているかどうかです。実装で終わるのではなく、実装によるアウトカム(意識や行動の変容を含む)を測定し、分析・評価までのプロセスを行ってはじめてソーシャルマーケティングとよばれます。

(詳しくは『行動科学でより良い社会をつくる』P.33-36)

Q

日本でも活用され始めていますか?

A

はい。日本における活用事例については、ここに掲載され、随時更新されています。新型コロナウイルス感染症対策をはじめ、様々な行動への適用が検討され始めています。

ご参考:日経・FT感染症会議「東京感染症ステートメント2021」